サウンドトラックができるまで vol.3
映画「ライフ・イズ・クライミング!」の「サウンドトラックができるまで」今回が最終回です。後半トラックから、エンディング曲まで、その制作秘話に迫ります!
Track7. Discover youtself
コバさんがエリック・ヴァイエンマイヤーさんとの出会いを振り返っているシーンに入っている曲ですね。
chihei hatakeyama:
この曲はすごい珍しいことに、昔のハードディスクを引っ張り出してきて、15〜6年前ぐらいの素材を使っていますね。確か中原さん(監督)が僕のアルバム「Saunter(サウンター)」(2009年発売)の感じが良いって言ってたと思うんだけど、「あの感じ、今の俺には出せないな」って思って(笑)。
今の作風とか、音の感じとは違うってことですよね。
chihei hatakeyama :
でも確かに、あのエリックさんのことを思うシーンって、「Saunter(サウンター)」の雰囲気が合うとは思ったので、昔の音で使ってないものを再編集して作った方がいいかなと。
この曲、すごくいいですよね。希望を感じるというか。
chihei hatakeyama:
「雨あがり感」があるんですよね、この曲。ドローン(うなり音、持続低音)でも、人の感情を、これだけいろんな表現できるんだっていうのは自分にとって発見だったし、奥が深いなーって思いましたね。
Track8. Current of The Time
Track9. Beautiful Patnership
コバさんとナオヤさんのパートナーシップを、ナオヤさんが昔撮った映像を中心に 振り返るシーンです。
chihei hatakeyama :
この曲は実は、一曲目(Theme of “Life is Climbing”)で使ったのと同じ演奏から使っています。一曲目の演奏の30〜40秒先で弾いてた演奏なんです。3分ぐらいの演奏から一曲目とこの八曲目を作った。1日中、スタジオでピアノ弾きまくったんですけど、結局この3分の演奏しか使っていないですよね。さらに言うと九局目も同じ演奏から(笑)。
よっぽどうまくいった演奏だったと(笑)
chihei hatakeyama :
そうですね。この絶望から希望へと向かっていく感じが表現できたかな…。コバさんの絶望から、ナオヤさんとの友情があって、最後「コバちゃんとあの岩に登りたいんだ」と言う流れがあって…。最終版ではカットされていましたけど、確か最初はコバさんの奥さんのインタビューが入っていましたよね?
はい、そうですね。
chihei hatakeyama :
あの言葉には結構、触発されましたね。完成版からはあのインタビューなくなってましたけど。
3分の演奏から一曲目、八曲目、九曲目が生まれたと。そうは思えないほど違う曲ですけど アレンジでかなり変えていくんですか?
chihei hatakeyama :
パソコンに入れてもう一回演奏し直す時にだいぶ曲のトーンが決まるというか。さっきも言った「リアクター」というソフト使って、もう20年ぐらい使っていて機材の中でも一番の古株なんですけどね。これがもう古いMacでしか動かない。このMacが壊れちゃったらもうどうしようもないっていう。そうなったら本当に困るんだよなー(笑)。この八曲目、九曲目は中々苦戦しました。でもこの後、本編の流れでいくともう一回、一曲目が流れるんですよね。だから九曲目はなんとなく一曲目の雰囲気に戻っていく感じにはなっている。
言われてみれば確かに! 今、気づきました。テーマ曲に戻っていくって言う…かなり洒落た演出があったとは…?同じ親(演奏)から生まれた三曲が、円環していくって言うことか!このインタビューがなければ気づかなかったな。
Track10. Departure
さて、次はフィッシャタワーにこれから登るぞ!っていうシーンですね。
chihei hatakeyama :
ここも新しい演奏から曲を作ろうといろいろ弾いてみたんですけど、結局、昔の演奏から音を引っ張ってきましたね。ここは、超苦戦しましたね‥コバさんとナオヤさんがグータッチして、さあこれから登るぞっていう時、どんな感じなんだろうってイメージが湧かなくて
「どうしよう」って、最初は全然思いつきませんでした(笑)。「出発感」を表現しようと、確かいろいろ作ったんだけど、採用されませんでしたよね?
確かにそうです。中盤のナオヤさんの出身校に行くシーン(コロラド・マウンテン・カレッジ)に当ってた曲をこっちにお引っ越ししたんですよね。そうしたらすごく合っていて。 なんか、いろいろやってもらったのに申し訳なかったです(笑)
Track11. Ancient Art
いよいよラストの曲です。フィッシャータワーズの頂上を目指すラストシーンです。
chihei hatakeyama :
やっぱり一番時間がかかりましたね、この曲が。なんかサスペンスというかスリリングな曲にしようとは思っていて。この映画のオファーよりだいぶ前、一年ぐらい前に古本屋で伊福部昭さん(ゴジラの映画音楽で知られる音楽家)の本を見つけたんですけど。で、伊福部さんが言うには映画音楽には結局のところ4つのパターンしかないらしいです。登場人物の感情を素直に表す、逆に感情とは逆の表現をするとか、まあいろいろ書いてあるんですけど、この曲は画面上の登場人物の緊張や恐怖感をそのまま表す、これに尽きると。デビット・リンチが好きなので、いつかサスペンス映画の音楽とかやりたいなと思っていたので、ついにその夢が叶ったというか(笑)。
この曲の後半には弦楽器・バイオリンが入ってきます。
chihei hatakeyama :
僕は楽譜が書けないので、この曲に即興でバイオリン入れられる人なんて見つかるかなっていうのが一番の不安要素だったんですけど、石井智宏さんが引き受けてくれて本当によかったなと。
録音には立ち合わせてもらいましたけど、すごい演奏でした。
chihei hatakeyama :
ラストだから感動的にしたいと言われていたし、そうした方がいいと思っていました。正直、ドラム入れてしまえば盛り上がるし、関係者の意見が割れることもなく感動的になると思ったけど「それだけは言わない」と決めて打ち合わせに参加してました(笑)何度も口から出かけたけど。「いや、駄目だ、この映画にはドラムじゃない」って自分に何度も言い聞かせて臨みましたね。
そんな葛藤があったとは!僕にはこの曲にドラムが入るところは想像できないけど。
chihei hatakeyama :
この後にMONKEY MAJIKの「Amazing」が来ますからね。あの爽快感を最大限に生かすためにもドラムだけは駄目だと(笑)盛り上げるにしても、少しリミットを設けるというか 少しブレーキを踏んだ、その塩梅がうまくいったと思いたいです。
そうか。でもバイオリンで良かったですよ。ドラムだったら、コバさんが登っている時に微かに聞こえるナオヤさんの声はきっと、かき消されちゃってたと思うし。きっとうまく言ってます(笑)
3回にわたってchihei hatakeyamaさんにサウンドトラック制作のお話を伺ってきました。映画「ライフ・イズ・クライミング!」は一般劇場公開が終わり、現在は自主上映会を各地で実施中です。詳しくはこちらから→https://note.com/synca_creations/n/ne18a61994e0d
また新作を続々とリリースしているchihei hatakeyamaさんの最新情報もぜひチェックしてみて下さい!https://www.instagram.com/chiheihatakeyama/?hl=en