祝! THE FIRST SLAM DUNK公開記念
あけましておめでとうございます。皆さんは「THE FIRST SLAM DUNK」ご覧になりましたか?
私は年の瀬、新宿バルト9で観てきました。いやーオープニングから大興奮で、あっという間の124分。正直、あの5人がコート上で活き活きと動いているだけで涙腺が緩んでしまう…という作品でした。鑑賞前、井上先生はなぜこの時代にあえてスラムダンクを映画にしようと思ったのだろう…?という疑問が頭をよぎっていたのですが、鑑賞したらあっさり疑問は解決しました。バスケットボールの持つ躍動感、スピード感を動く作品・映画で残したかった、これに尽きるのではないかと思います。例えば、手塚先生が多額の借金を背負ってまで、「動く鉄腕アトム」にこだわりアニメを作り続けたこと、大友先生がマンガ連載を休止してまで「AKIRAの映画化」にのめり込んでいったこと、それに似た執念のようなものを感じましたね。
筆者は中学生時代バスケ部にいた経験者ですが、少しでもバスケをしたことがある人にとっては、「この感覚って映像化できるのか…!!」にまず驚くのではないでしょうか。すいません、本稿では内容について触れるつもりはありませんのであしからず。未見の方は安心して読み進めてください。
NBAを目指す2人の少年を追った傑作ドキュメンタリー
LIFE PICTURESではドキュメンタリー映画を紹介していきます。今回はTHE FIRST SLAM DUNK公開記念ということで、1994年公開の「HOOP DREAMS(フープ・ドリームス)」をご紹介します。監督のスティーブ・ジェイムスは元々、TV番組向けに30分の作品を作ろうとしていたようですが、5年に渡る密着取材を続けた末に170分(!!)の作品に仕上げました。「死ぬまでに見たいドキュメンタリー(current TV)」の第一位にも選出されたことがある、傑作ドキュメンタリーです。
映画の舞台はアメリカ・イリノイ州シカゴ。赤いユニフォームで知られ、スラムダンクの「湘北高校」のモデルとしても有名なシカゴ・ブルズの本拠地です。アフリカ系アメリカ人が多く暮らす地区で育った2人の少年、アーサー・エージーとウィリアム・ゲイツが主人公。ストリートでバスケをしていた少年が、バスケの名門・聖ジョゼフ高校からスカウトされたことで人生が大きく動き出す…。取材開始当時、まだ声変わりもしてない少年が、貧困・犯罪・家族が抱える問題に翻弄されながらも成長していき、バスケで立身出世していく姿を追った、まさに王道のドキュメンタリー。監督のスティーブ・ジェイムスは数々のドキュメンタリーを手がけている監督で、最近ではスケボー少年を描いた映画「行き止まりの世界に生まれて」のエグゼクティブ・プロデューサーを務め、後進の育成にも力を入れています。
私はこの作品、何度も見ていますが3時間近くあるのに全く長さを感じません。アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされ、興行的にもドキュメンタリー映画の興行記録を次々と塗り替え、大きな成功を収めました。(「フープ・ドリームス」の記録を塗り替えたのが、2002年に公開されたマイケル・ムーアの「ボーリング・フォー・コロンバイン」です)。2人の主人公、アメリカではちょっとした有名人なようです。
1990年代のバスケ・ファッションも見ていて楽しい
資料によると取材が始まったのは1987年、物語の大半を占める2人の高校時代というのがおそらく1988年から1992年ごろになるはずです。(wikipediaで調べたら2人はちょうど50歳になったとのこと)。スラムダンクの連載開始が1990年なので、時期的には重なっています。「フープ・ドリームス」では主人公がバスケットシューズを買いに行くシーンがあるのですが、1990年ごろのバスケット・ファッションも見どころです。
これは筆者が中学でバスケットボールをしていた時期にも重なるのですが、ピチピチのユニフォームに布バッシュ、が定番だったバスケ部を、ナイキをはじめとするかっこいいバッシュ、スポーツウェアが席巻し始めた時代です…!。スラムダンクも連載当初はみんなピチピチユニフォームを着ているのに、だんだんダボダボユニフォームになっていくという時代の変化を感じます。流川くんが履いていた「AIR JORDAN5」は当時中学生であった私には当然高嶺の花で(定価ではなく、今で言う「プレ値」で売られていたはず)それ以上にすごくバスケ上手くないと履けない空気もあったり…それはさておき、当時のファッションはこんな感じだったんだーというのがリアルに伝わってくるのもドキュメンタリー映画の魅力ではないでしょうか。
90年代の始まりを彩っていたJORDAN 5やカラフルなナイキのナイロンジャケット、今、高円寺あたりの古着屋で結構いい値段で売られたりしているのを見ると私などは目眩がしてしまいますが(笑)、リアル90年代を知らない若者がさまざまなアーカイブからこういったものを選んで自分好みのスタイリングに取り入れられるのは、いい時代だなと思います。
夢を追うことに意味はあるのか?
タイトルに「フープ・ドリームス」とあるように本作は、貧困地区に育った2人の少年がバスケで夢を叶えようとする姿を描いています。物語の序盤に当時デトロイト・ピストンズ率いていたアイザイア・トーマスが登場します。90年代にNBAでマイケル・ジョーダンが「ブルズ王朝」を築き、6度の優勝を果たしたことはよく知られていますが、王朝以前のNBAを席巻していたのがアイザイア率いるピストンズ、通称「バッドボーイズ」だったのです。(そしてアイザイアとジョーダンが犬猿の仲だというのは有名な話です。Netflix「マイケル・ジョーダン:ラスト・ダンス」の第3話にその辺りの話が詳しく描かれています)アイザイアは2人の主人公が進学するバスケの名門・聖ジョゼフ高校の出身で、2人と同様に経済的に苦しい少年時代を過ごしました。高校時代から頭角を表し名門大学に進学、そして弱小だったピストンズを率いてNBAを2連覇…まさに「夢」を「フープ(バスケのゴールの輪)」で成し遂げた、本作品を象徴するような人物です。
この作品の中で2人の主人公がアイザイアのように「フープ・ドリームス」を叶えるかどうかは、ぜひ作品を見ていただきたいと思います。スポーツ・ドキュメンタリーでは、すでに名を成した人の功績を振り返ったりするものが多いですが、「フープ・ドリームス」は本当に人生がのるかそるかの瀬戸際に密着している稀有な作品です。喜怒哀楽、そして家族愛に満ちた2人の人生を本当に近い距離で捉えていて、見応えがあります。また、まだ高校生ながら試合のシーンもいいんですよね。バスケットボールはあの狭いコートの中を、選手が高速で動き回るスポーツなので、映像で捉えるのが極めて難しいスポーツの一つだと思いますが、躍動感、一瞬のプレーに込めた思いが伝わってきます。
「THE FIRST SLAM DUNK」に話が戻りますが、バスケットボールというスポーツの躍動感、それぞれのプレーはほんの一瞬の出来事だけど、その刹那に交錯するプレーヤーの思い、井上先生が描きたかったのはそこなのかなと。それを試合の途中に、急に長いモノローグが入る、という手法ではなく、バスケットのリアリティを追求することで成し遂げたのが、「THE FIRST SLAM DUNK」の素晴らしさなのかなと、私はそういう結論に至りました。
「フープ・ドリームス」ですが、以前はNetflixで観ることができましたが、残念ながら今は配信されていません。DVDは中古でも一万円以上の価格になってしまっています…。あとはTSUTAYAでレンタルするしかないのかな…。「フープ・ドリームス」に限った話ではないですが、ドキュメンタリーの名作がどんどん見づらくなっているのは寂しい限りです。
さて、次回も「THE FIRST SLAM DUNK」公開記念ということでバスケット関連の作品をご紹介します!