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LIFE PICTURES

【感想レビュー】ガザ・サーフ・クラブ

SNSでこの映画の存在を知った時、今見るべき映画だと思った。僕のようにこの映画のタイトルに反応したサーファーは多いと思う。皆んなの気持ちを代弁するのは簡単だ。「ガザにサーファーがいる?」。

予告編

ガザ地区はパレスチナ自治区(独立国ではない)の一部で、種子島ほどのエリアに200万人以上の人々が暮らしている。隣国イスラエルとの紛争が絶えず、2007年にイスラエルにより隔離壁が建設された。その結果、ガザは四方を高い壁と海に囲まれ、物流も移動も制限された「天井のない監獄」となった。以後も紛争は絶えず、多くの建物は破壊され、人命が奪われつづけている。

昨年10月7日にガザを実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルの音楽フェスを襲撃した事は世界中に衝撃を与えた。まさにその中心がこの映画の舞台だ。(注釈:ガザとイスラエルの紛争には波があり、激しい時期もあれば安定期もあるそう。この映画が撮影されたのはおそらく安定している期間だと思う。)

そんなガザの内側を見ることができるという意味でも、この映画は貴重だと思う。ニュースは悲惨な状況しか映さないけど、この映画では日常を見ることができる。お店もあれば、漁師もいて貧しくも生活が営まれている様子が分かる。

主人公の青年イブラヒーム(23)は戦争が続くことにガザの人々は慣れてしまったと語っている。映画の冒頭、爆撃で瓦礫となった街中を車で走り抜ける場面でも、その光景にさほど気を留める様子もはない。エジプトの女性に恋をしたけれど、ガザには住みたくないと言う理由で断られたこともある。”慣れ”という言葉の裏には諦めの気持ちが含まれているように思う。最年長サーファーのアブー・ジャイヤブ(42)はガザの外の世界を見る事を夢見ているが、今回の人生でそれは叶わないだろうと知っている。この映画が示すのはそうした未来の見えないガザの日常だ。

そんな状況下でもサーフィンに興じる若者達がいる。オンショアのジャンクなコンディションだろうがお構いなしにパドルアウト。どんな波からも喜びを見出す誇り高きサーファー達。車にボードを積んで海に向かいながら駄話しをする彼らはエンドレスサマーの青春そのまま。女の子のサーファーもいる。15歳のサバーフ。子どもの頃からサーフィンを習っているローカルヒーローだ。彼女に憧れてサーフィンを始める女の子もたくさんいて、サバーフはそれを誇りに思っている。大人になるにつれ、女性が海で泳ぐことを疎む周囲の目を気にして海から遠ざかっているサバーフが幼い頃の自分がサーフィンをしているビデオを嬉しそうに見つめるシーンは印象的だった。逃げ場も未来への展望もない中で、彼らにとってサーフィンは希望だ。波に乗っている間は紛争のことも、壁のことも考えず自由でいられるから。

物流の自由が無いガザにサーフボードを持ち込んだのは、米国人の医師のドリアン・パスコウィッツ氏。スタンフォード大学で医学を学んだ異色のサーファー。彼はサーフィンの”効能”を信じている。どんなに歪みあっていても、サーフィンが緊張した関係を溶かしてしまうと信じている。波がくれば必死でパドルするしかないから。ドリアン氏がガザにサーフボードを届けたのは2007年。監視下の中、撃てるものなら撃ってみろと信念を貫いた。(ドリアン氏へのインタビュー資料によれば)なんとその現場には後に11度の世界王者となるケリー・スレーターもプロジェクトメンバーとして同行している。当時のガザ地区にサーファーは二人しかいなかったが、彼がサーフボードを届けたことで50人にも及ぶサーファーとサーフコミュニティーが生まれた。

ガザのサーファー達はそうして持ち込まれたサーフボードを今でも大切に使っている。材料が手に入らない為、ガザでサーフボードを作ることはできないようで、漁師のサーファーは「子どもよりサーフボードの方が大事だ。子どもは産めるけど、サーフボードは手に入らない」と笑えない冗談を言うのだけど、それほどサーフボードは貴重なものということなのだ。

物語は中盤、青年イブラヒームがガザを抜け出しハワイにボードシェイプを学ぶために出発する事をきっかけに大きく展開する。そこで彼が目にするのは、紛争などこの世に存在しないかのような楽園だった…。

この映画を見ながら、何を思えばいいのか考えていた。自分にできることが思い当たらなかったから。心を過ぎるのは、彼らの何人が今も無事に生きているのだろうかということ。サーフィンをしている時の彼らの笑顔や、生活の営み、叶わない恋があることを知った今、彼らを他人とは思えない。この映画の価値はそこにあると思う。彼らを知る事。特別試写会に登壇された元パレスチナ事務所長の成瀬猛さんは、この戦争もいつか必ず終わる日が来ると語る。それがどんな形かは分からないけど、平和が訪れ、彼らがまた海に戻る未来が来ること願っている。

サーフィンには人の間にある緊張を緩和する”効能”がある。波に乗っている間に感じるのは圧倒的な自由だから。その感覚を知っているサーファーにはこの【ガザ・サーフ・クラブ】を是非見て欲しい。

上映情報

監督・脚本:フィリップ・グナート、ミッキー・ヤミネ
製作総指揮:ミッキー・ヤミネ
プロデューサー:ベニー・タイゼン、ステファニー・ヤミネ、アンドレアス・シャープ
撮影:ニクラス・リード・ミドルトン
編集:マレーネ・アスマン、ヘルマール・ユングマン
⾳楽:サリー・ハニー
出演:サバーフ・アブ・ガネム、モハメド・アブー・ジャヤブ、イブラヒーム・アラファト
原語:アラビア語 / 英語 / ハワイ語 字幕:⽇本語
配給:ユナイテッドピープル
字幕:額賀 深雪
字幕監修:岡真理
2016 年/ドイツ/87 分

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