「パンクの女王」永遠に
昨年末、英国のファッションデザイナー ヴィヴィアン・ウエストウッドが亡くなったというニュースが発表された。
年明けに買い物に行ったとき、ふとそれを思い出して久々にお店を覗いてみようと渋谷・原宿近辺から青山店まで足を伸ばした。
表参道をまっすぐ進んで、青山通りに出る少し前に右に曲がる。あとは細い道をなんとなく右に左に進んでいくと(筆者は絶望的な方向音痴である)閑静な路地に突然、ガラス張りのウィンドウが現れ、中にはトルソーが飾られ、看板の「Vivienne Westwood」の文字がピンク色に光っている・・・はずだった。
青山店は彼女の喪に服し臨時休業していた。
ウィンドウに飾られていたのは彼女の写真と、メッセージと、10本の赤い薔薇。
薔薇は色や本数によって異なる花言葉を持つ。
赤は「愛情」「情熱」
10本の薔薇は「あなたは全てが完璧な人」「かわいい人」
生前の彼女は、どれだけ周りから愛されていたことだろう。
「パンクの女王」という孤高のイメージとは違った一面、まさしく「女王」のように彼女もまた、周囲の者を愛し、愛されていたのではないだろうか。
今回紹介するのは、ファッションデザイナー、環境活動家、そして一人の女としての道を貫いた彼女の破天荒な人生を綴ったドキュメンタリー映画「ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス」である。
「昔話なんて退屈よ」
金髪のショートヘア、黒いゆったりとしたワンピース姿でインタビューに応じるヴィヴィアン・ウエストウッド。撮影当時には既に70代半ばを迎えているが、眼差しは鋭く、声には張りがある。しかしイメージしていたよりも高く可愛らしい声だという印象を持った。
しかしソファに深く身を沈め気だるげに「暴露話を強制されるのはごめんだわ」「好きなように話して、さっさと終わらせたいの」と言われてしまうと、まだ何も聞いていないはずだが、何か彼女を怒らせてしまったのかとハラハラさせられる。気まぐれで、人を圧倒する「女王様」ぶりが映画冒頭から炸裂する。
「聞きたいなら話すけど、昔話なんて退屈よ」と自身の幼少期から現在に至るまでを語り始める。
彼女の人生は、まさに波瀾万丈。
「え!?そんなことがあったの?」「それ言っちゃっていいの?」と仰天するような赤裸々なエピソードが次々に明かされる。
ビジネスパートナーであり恋人でもあったマルコム・マクラーレンとの確執、テレビに出演したときには自らのデザインした服が司会者から嘲笑され、パパラッチは彼女が泥酔して大暴れしたという記事をばら撒いた。
彼女が世に送り出した伝説的パンクバンド、セックス・ピストルズのシド・ヴィシャスの悲劇については「やめて……」を顔を覆う場面もあった。
しかし元教え子だった25歳年下のアンドレアス・クロンターラーと再婚し、二人三脚でファッション業界の最前線を走り続ける。
少女のような可愛らしさ
ヴィヴィアン・ウエストウッドは、自分に素直な人だ。
映画の中でも「私はこれ大好きよ」「こんなの嫌いだわ」と、直感で思ったことをハッキリと言うシーンが度々出てくる。服のデザイン、会社経営、恋愛全てにおいて自分の「好き」「嫌い」だけをルールとし、他人の批判や嘲笑など気にしない。やはり彼女はワガママ女王様なのだろうか?
彼女は確かに我儘だ。しかし自分の行いを振り返る素直さも持ち合わせている。
自分がデザインした服の仕上がりを見て「こんな酷い服、ショーに出せないわ。クソ喰らえよ!」と感情的に叫び周りのスタッフが凍りついたところに「こうなったのは私のせいね・・・もう引退かしら」と落ち込んでみせる。振り回されるスタッフの苦労が垣間見えた。
計算ずく?メンヘラかまってちゃん?否、きっと彼女は素で言っている。感情の動きをそのまま口にしているだけ。その口から出る言葉の全てが本心だ。
ヴィヴィアンの服が好きでこの映画に興味を持った人でも、見始めた段階ではきっと彼女の感情的な性格にヒヤヒヤ、またはイライラするだろう。しかし見終わった頃には彼女のことを「かわいい人」と思うに違いない。彼女は天性の人たらしなのである。
映画の終盤、ファッションショーが始まる直前の控え室にて、出演モデルのケイト・モスにヴィヴィアンは囁いた。
「私、貴女が相手なら女との恋愛も良かったかもしれないわ」
ここまで来れば、彼女に手向けられた10本の赤い薔薇の意味がよく分かることだろう。
自分に正直で、周りの言うことなんか気にしないで、思いついたことはすぐ行動、時に落ち込んで、でも自分を曲げることはしない。
大きな夢に向かって走るティーンエイジャーの少女そのままではないか。
彼女の中には「衝動」「品格」「無邪気」が同居し、誰にも真似できない個性が輝いている。
彼女は生涯現役を宣言し、宣言通り引退することなく81歳で没した。このことに勇気づけられた人も多いはずだ。
いくつになっても、夢を見ていい。子供のように素直に生きていい。突っ走っても、見ていてくれる人は必ずいると。
何かを始めたい、諦めたくないけど「常識」が邪魔をして動けずにいる人に是非この映画を観てほしい。
Amazon prime videoで視聴可能!
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敬愛なるVivienne Westwood様へ
14歳の頃、貴女との出会いは私の中での革命でした。
高校生になってやっと貯めたアルバイト代で、初めてネックレスを買ったことを覚えています。
当時は青山のお店なんて行く勇気がなく、わざわざ家から遠い立川店まで行ったのですよ。
あれから10年後、貴女の代表的な作品である「ロッキンホース・ゴルフ」を青山店で購入しました。
世の中なんて嫌いなことの方が多いくらいで、嫌になってしまいますが、
今日も猥雑な世界のノイズをロッキンホースの靴音で掻き消し、私はもう少しだけ、この嫌な世界を歩いてみることにします。
足を止めなければ道は拓けると、貴女が人生をかけて教えてくれたから。