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LIFE PICTURES

【感想レビュー】パーフェクト・デイズ

公式HPより

ヴィム・ヴェンダース監督はドキュメンタリー作家である

ヴィム・ヴェンダース監督の「パーフェクト・デイズ」はご覧になりましたか?私は新宿で観ましたが、すごい人が入っていてビックリしました。80年代のミニシアターブーム直撃世代かな?という方々も見かけましたが、若い世代も多かった気がします。LifePicturesは ドキュメンタリー映画紹介サイトなので「パーフェクト・デイズ」に深くは触れませんが、本当にドイツ人の監督が撮ったのかと思うほど、東京を感じさせる映画でした。劇中で出てくるトイレの一つは、前に取材したことがあるのですが、映画の舞台になるなんて思いもしなかった…です。あのような映画が日本人ではなく、海外の監督によって撮られたことは興味深いですね。私たちにとって日常すぎて見落としてしまったのか、そもそも日常の機微というものを日本映画はもう描こうとしていないのか、いろいろな人と話したくなります。そして改めて思いました。ヴィム・ヴェンダース監督はドキュメンタリー作家である、と。っていうか本人も言っているから間違いないでしょう。→インタビュー映像https://www.youtube.com/watch?v=0pQJ9-wrLVA&t=28s

なぜならリアルな音を大切にしているから

私が一つ思ったのは「パーフェクト・デイズ」は「音」の映画であるということです。題名が「パーフェクト・デイズ」と言っているぐらいなのでパーフェクトな日々が描かれていまいすが(というか描かれているかどうかは観た人がそれぞれ考えるとして)、その日々に欠かせないのが「音」でしたね。箒の音、自販機の缶コーヒーが落ちる音「ガシャン」、立ち飲み屋で流れる野球中継の音…自分にはそれぞれが若干大きい音量でMIX処理されているように聞こえました。そして、ぞれぞれの音が音楽を奏でているようなテンポ感、間合い、空気感。どう考えても東京という街を歩いていたら、私たちはどこかで平山と出会ってしまう。そうとしか思えません。

そういえば、映画の原初的な輝きを取り戻そうとしたドキュメンタリー的な運動が30年ほど前にありました。

かつて北欧・デンマークのラース・フォン・トリアーをはじめとする映画監督たちが、起こした映画運動に「ドグマ95」があります。1995年に作られたので「95」です。これはCG、特殊効果、豪華なスタジオ、と作り物としてどんどん華美になっていく映画産業に対するアンチテーゼでした。「純潔の誓い」と呼ばれる10個のルールが定められたのです。

10個のルールはご覧の通り。これって「映画はドキュメンタリーかモキュメンタリー(ドキュメントっぽく見せる演出手法)でなくちゃだめ」って言っているようなものですね。

1.すべてロケーション撮影によって行う。小道具やセットは持ち込んではならない。

2.  音楽は使ってはならない(背景にある音楽は可)

3.  カメラは手持ちカメラを使う。

4.カラー映画であること。人工的な照明は禁止。

5. オプティカル処理やフィルター使用は禁止。

6. 殺人や武器の使用、爆破などの表面的なアクションは禁止。

7. 時間的、地理的な乖離は禁止。

8. ジャンル映画は禁止。

9. フィルムはアカデミー35mm(スタンダード・サイズ)を使用。

10. 監督はクレジットに載せてはいけない。

それにしてもあの「音」をまた聴きに行きたい

話を「パーフェクトデイズ」に戻すと、このルールの中の2は、守られていますね。不安を駆り立てたり、悲しい気持ちを引き立てるのに弦楽器が鳴ったりはしません。厳密に言うと、この映画にはBGMも流れておらず、観客は主人公・平山がかけるテープを「たまたま」聞いてしまうという体をとっています。ヴィム・ヴェンダース監督が今更「ドグマ95」に誓いを立てるわけはなく、映画表現が持つ、「記録」という特性の、とても原初的な部分を大切しているということなんだと思います。私はよくドキュメンタリー映画を鑑賞しますが、ドキュメンタリー映画の何が好きかって「音」が好きなんです。発せられる言葉が明瞭でなかったり、どうしても現実を撮っているので意図してない音(周りの人がボソボソ喋っていたり、何か落としちゃったり)が入っていたり、そういう「今、ここ」その時にしかなかった音が鳴っている感じがいいんですよね。「パーフェクトデイズ」は劇映画なのでサウンドデザインは計算され尽くされていると思いますが、ドキュメンタリー映画の音声に感じるような手触りを感じるのです。ああ、なんだかまたあの「音」を聴きに行きたい…私にとって「パーフェクトデイズ」はそういう映画でした。

ヴィム・ヴェンダース監督の作品にドキュメンタリー的なものを感じるのは、偶然ではありません。これはドキュメンタリーの名手でもあるのです。しかも東京を舞台にした作品を1980年代に2本も作っています。

【東京画】

ヴィム・ヴェンダース監督がこよなく愛する小津安二郎監督に捧げたドキュメンタリー映画です。1983年に撮影されたもので、当時の東京の街並みが映し出されています。当時の街並みを垣間見るだけでも面白いです。外国人が見た東京、という感じがしないと思うのは私だけでしょうか。
「パーフェクト・デイズ」の公開に合わせてなのか、U-NEXTとスターチャンネルEXで観ることができるようなので、加入されている方はぜひ!オススメです。小津安二郎監督「東京物語」を見て、この「東京画」を見て、「パーフェクト・デイズ」を見る。カメラが捉えてきた東京の姿をそんな視点で見直してみるのも面白いと思います。

【都市とモードのビデオノート】

こちらは1989年製作のドキュメンタリーでファッションデザイナーの山本耀司を追ったドキュメンタリーです。フィルムカメラとビデオカメラの映像をコラージュする、という手法で構成されています。
やっぱりビデオカメラの登場というのは映像表現に大きな影響を与えたということだと思います。当時の「斬新」が今どう見えるのか?を考えてみるのも面白いですよね。
私は仕事でスマホを使って撮影することは、ほぼありませんが現代のリアルはどう考えてもスマホ。便利だから、軽いから、楽だから、ということではなくスマホが今、私たちにとって何を映す装置なのかを考えるために、スマホ撮影をやってみようかな、と思いました。ヴィム・ヴェンダース監督がこの作品でやったように、ですね。

というわけで、私が紹介するまでもなく絶賛公開中の「パーフェクト・デイズ」。今回はこの作品は「ドキュメンタリー映画である」という観点からご紹介させていただきました!

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