統合失調症の姉、そして家族との20年にわたる対話
おそらく今年最も話題となっているドキュメンタリー映画「どうすればよかったか?」を鑑賞してきました。ポレポレ東中野で見ようと思ったら、満席。テアトル新宿も、満席。キネカ大森でようやく席を確保できました。映画を見ようと思って席が中々取れないなんていつ以来だろう?とにかく多くの人が関心を寄せている映画です。すいません、今回はネタバレがあるので、鑑賞後に読まれることをオススメします。
鮮明になっていく映像と老いていく登場人物たち
監督が姉、そして両親にカメラを向けた作品という予備知識はありましたが、実際に鑑賞すると切ない…時の流れの無情さというと容赦のない感じがとにかく切なかったです。実際に画面上にも出てきますが、監督が最初手に入れた機材はソニーのVX100。1995年に発売されましたが、はじめて3CCDを搭載したデジタルビデオカメラで放送業界に画期的な変化をもたらしたカメラです。
要は光の三原色「赤・青・緑」を再現するCCD(センサー)が色ごとに3つあるので、当時の小型カメラでは考えられないほど「めちゃくちゃ綺麗な映像が撮れる」カメラだったのです。それまで放送に乗せる映像を撮るには、肩に担ぐ大型カメラを使わなくてはいけなかったのが、その必要がなくなったのです。VX1000さえ手に入れば、誰でも作品作りができる、そういう時代になったのでした。発売は30年前、放送業界に普及したのは25年ほど前でしょうか。
VX1000で映されたお姉さん、ご両親、そして監督自身もみんな若い。とはいえ映像の質感はやはり今の時代からすると不鮮明でぼんやりしています。なにせ30年近く昔の機材ですから、画素数だってハイビジョンの1/6しかありません。4Kと比べたら1/24程度。そしてこの映画では、中盤から機材がアップグレードして映像は鮮明になっていくのですが、映像が鮮明になればなるほど、「老い」という月日の流れを残酷に映し出していく様が、とにかく切なく感じました。やっぱりお姉さんの様子にはどうしても「停滞」を感じてしまうのです。
「毒親」を描いた作品には思えない
紹介文にある「父と母は玄関に南京錠をかけ、彼女を閉じ込めた――」というセンセーショナルな言葉から、きっと登場するのは「毒親」なんだろうと思っていました。ご両親の発言や思考に、ある種の「固さ」は感じたので、予想通りという部分も正直ありました。ただ一方で私は、どうしても「ああ毒親の話か」と済ませることができない感情を、作品から感じたのも事実です。南京錠だって、考えようによっては、娘を守ための苦肉の策にも見えるので。
後半、統合失調症の治療がはじまり穏やかになっていくお姉さん。この映画を観た誰もが後半になるとホッとするし、私もそうでした。ただ鑑賞後に考えると、投薬前のお姉さんの言動には、支離滅裂ながらも「医師」や「研究者」になりたいというエネルギーがあったようにも思えました。そのエネルギーに日々接していたご両親が、診療、投薬という決断に踏み切れなかったことを、なんというか断罪する気になれないのです。
真実は人それぞれだし、人は考えるのをやめることはできない
鑑賞前「どうすればよかったか?」はタイトルとしてちょっと反則だな、と感じていました。作品のメッセージはやっぱり監督が考えなくちゃ、だし、そこを放棄するのはいかがなものかと。ただ鑑賞すると、もうこうするしかない、これ以外ない、というタイトルですね。もうお母さんもお姉さんも亡くなってしまい、誰を責めても誰を庇っても、何も変わらない。でも考え続けるのだという、監督の意志表明なのだと思います、このタイトルは。だからこの映画を観て、私たちがこの一家のことについて、正解・不正解という結論を出す必要はきっとないのでしょう。私たち自身にもそれぞれ考え続けなきゃいけないことがある、それを思い出せれば良いのだと思います。
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