サウンドトラックができるまで vol.2
前回に引き続き、Chihei Hatakeyamaさんにうかがう「サウンドトラックができるまで」。今回は全曲解説その1になります。映画の作品世界をどう解釈し、サウンドスケープを作っていったか?作品のストーリーを知っているとさらに楽しめるインタビューとなっています。まだまだ公開中の劇場もありますので、作品を鑑賞してから読んでいただけると幸いです! 劇場情報はこちら→https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=lifeisclimbing
Track 1 . Theme of “Life is Climbing” (ライフ・イズ・クライミング! テーマ曲)
Chihei Hatakeyama :
ピアノが合うかなと思っていました。ひょっとして過去に弾いた素材で使えるものがあるかもって思い、アーカイブから引っ張り出していろいろやったのですがうまくいかなくて。
近くにあるスタジオのアップライトピアノで、まずは弾いてみました。4時間ぐらい。
ちょうど梅雨の暑い日だったんだけど、録音する時は(エアコンの音が入ってしまうので)冷房を切らなくちゃいけない。弾いているうちに意識が朦朧としてきましたね(笑).
何十テイクとインプロビゼーションで録った中で、お、これは使えるっていうテイクがあって。3分ぐらいの演奏で。そのなかの30秒ぐらいを使っています。
で、その音源を僕が昔から使っているソフトサンプラー・REAKTORに入れて、そこからあらためて作曲していった感じです。サンプラーなので、オクターブを上げたり下げたり、 いろいろ手を加えていって。実際は30秒ぐらいの演奏なんですが、ただ繰り返しているのじゃなく、だんだん雰囲気とかいろいろ変わっていく感じの曲に仕上げました。
この曲は冒頭だけでなく、映画の終盤にもリフレインされます。そっちの方が曲の雰囲気が変わっていく感じがわかるかもしれませんね。
Chihei Hatakeyama :
そうですね。何十テイクとある中で、この音源を選んだのには理由があって、映像のタイム感というのかな、テンポが合ってないと、絵にも合わないので。絵と合わせてみた時にタイム感がピタッと来る音源だったんですよね。
Track 2 . What Lies Ahead?
2曲目はアメリカのシーン始まるところに流れますね。
Chihei Hatakeyama :
この曲の最初のシンセ、これは僕がコロラドに行った時に感じた雰囲気そのものというか(笑)。圧倒的なスケール感、SFみたいな感じというか。やっぱり日本とアメリカって全然違うじゃないですか。山が見えているんだけど、それがメチャクチャ向こうにある感じ。
ここにアコースティックギターを入れようっていうのは監督と話していて、そうなったんじゃなかったかな。自分的にはこのSF的なシンセの音にアコギはミスマッチだと思うんだけど、映像に合わせるとそのミスマッチが逆にいいというか。1982年製のシンセで弾いてます。
確か、最初の打ち合わせで「アメリカの大地、、やっぱりライ・クーダー、、でもそのままってわけにもいかないよね」って話はしましたよね。でも私は”Earth a While”を聴いていたので、アコギはどこかで入れたいって言った気がします。
track 3 . Feel Conflicted
Chihei Hatakeyama :
この曲はギタードローンですね。(ドローン…音高の変化なしに長く持続する音。別名「うなり音」「持続低音」)得意としているジャンルなので、クライミング前のコバさんの心象風景みたいなものを表現できればと思いました。
畠山さんが定期的にリリースされている「Voidシリーズ」に似た感触の曲ですね。
Chihei Hatakeyama :
はい、そうだと思います。1曲目、2曲目は今回用に新規に演奏しましたけど、この曲は自分の音素材のアーカイブからいろいろあてていって選びました。なんかね、クライミング前のコバさんの不安な気持ちっていうのは、自分には想像しきれないところもあったので、アーカイブの音源に細かなアレンジをしながら微妙な調整を繰り返して仕上げた感じかな。
Track 4 .New Scenery
これは最初のクライミングで登り切った直後に流れる曲ですね。これは当初別のところに当てていた曲ですね。
Chihei Hatakeyama :
当初は、登り切ったところじゃなく、登り始めるシーンに当たってました。監督から登り始めるところに曲をあてたいと言われ、正直どんな曲にすればいいのか全然イメージが湧かなくて困ったパターンです(笑)この映画のクライミングシーンて言わば、アクションシーンじゃないですか。普段、自分の曲の作り方って風景とか、動かないものをイメージすることが多いので、難しかったんですよね。で、元々この曲は監督からの要望に応えたのではなく「この曲、どこか使えるところがあれば使ってください」って感じで渡したんですよね。
なんか、どこに入るかわからないけどコバさんとナオヤさんの雰囲気に合うなーって曲がたまたまできたので。で、監督が最初、クライミングが始まるシーンに入れた。
はい、でもなんかしっくりこなくて。いい曲なんだけど。で、森プロデューサーでしたね「登り終わった後が合うんじゃない?」って。
そう。そうしたらすごい合ってた(笑)。この曲もアメリカツアーでインスパイアされてできた曲の一つで。帰国してから4日後ぐらいに作ってますね。今回わかったことが一つあって。普段は音楽を作るモードに自分を持っていくのが結構大変なんだけど、時差ボケしているとすぐに持っていける(笑)日常とは違う感覚にいるので、とても音楽が作りやすいな。
Track 5 . Ties
コバさんナオヤさんが焚き火をするシーンに当たっている、この曲。これも最初は他のシーンにあてていた曲ですね。
Chihei Hatakeyama :
これはDX7というYAMAHAのシンセで弾いてますね。これも当時の近未来的な音が出るもので1984年製かな。この80年代の人たちが、夢見た未来、ドラえもんの未来予想図みたいな(笑)
チューブの中をエアカーが飛んでいるじゃないけど、2020年とか2025年とかはこんな感じと想像して作った音を、あえて今聴く感じが好きなんですよね。でも実際に2020年代って、80年代とあんまり変わってないっていくか、インターネットぐらいじゃん、変わったのってという感じですよね。そう思うと、思ったより発展しなかったなーとかいろいろ考えてしまって、なんだか悲しいニュアンスが付加されるんですよね、80年代の人たちの思い描いていた未来って。
なんだかねじれたノスタルジックって感じですね。
あとこの合唱団っていうか、コーラスみたいな声、もDX-7で作りましたね。なんて言うかビートルズも使っていたメロトロンみたいな、本当の人の声じゃななくて安っぽくて機械っぽいコーラスみたいな音、あえてそういう音を合わせるといいんじゃないかなって思いました。
ノスタルジアって言葉があって、英語なんですけど、調べたら故郷を思う気持ちって書いてあって。わざわざ故郷を思うっていう言葉があるんだと。最近、ニューシネマパラダイスを観直したんですよ。若い時はピンと来なかったんですけど、大人になって観ていたらメチャクチャ良かった(笑)。自分なりのニューシネマパラダイスを表現しようとしたのがこの曲なんですよね。全然関係ないですけど、主人公が若い時恋人と別れるじゃないですか?あれディレクターズカットなのか何なのか、あの恋人と再会するバージョンもあるんですよね。
再会してドロドロとした恋愛エピソードみたいなのがあって…
うーん、それあんまり観たくないかも
Track 6 . Fear
この曲はコバさんが若い頃、病気を宣告され…という話を語っている時の曲ですね。
Chihei Hatakeyama :
この曲が一番苦労せずに、というかスッとでできた曲で。やっぱり風景とか、心象風景に対して曲を作るのはそんなに苦労しないみたいです。「どうすれないいんだ」みたいな感じに全然ならなかった。
昔弾いたピアノの音源をサンプラーに入れて、そこからさらにモジュラーシンセで加工して、そこで音を足してったり…という感じで作りました。このモジュラー シンセ、買ったもののどう使っていいのか全然わからなくて、今回のこの曲で「ああ、こうやって使えばいいんだ」ってわかったのは嬉しかった(笑)
これ、タッチセンサーがついていて、手を触れると再生スピードとか音程が変わるんですよ。多分おまけの機能なんだけど。で、この曲はその機能を使って、意図的にグニョンとスピードや音程を変えている。変えることでコバさんの気持ちの揺れ動き、不安な気持ちと、いや俺は大丈夫だって、を表現したかったんですよね。
最終版ではカットしましたが、コバさんが「病気を宣告されてから今まで、不安な気持ちと 前向きな気持ち、ずっと行ったり来たりしている」って言っていて、その気持ちが音楽的に表現されてますね。
ああ。確かにそうかもしれないですね。
7曲目以降のお話はまた次回!お楽しみに!