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LIFE PICTURES

映画「ライフ・イズ・クライミング!」プロダクションノート #02

chihei hatakeyama

サウンドトラックができるまで

視力を失ったクライマーとその相棒がアメリカでクライミングに挑む姿を描いたドキュメンタリー、「ライフ・イズ・クライミング!」。5月12日から劇場公開が始まったこの作品、 サウンドトラックを担当しているのは、アンビエント/ドローン作品を世界各国のレーベルからリリースしているchihei hatakeyamaだ。2017年にはSpotifyで「世界で最もよく聞かれる日本人アーティスト」のトップ10にランンクイン。世界が注目する電子音楽家に、本作の制作背景、さらには全曲解説をうかがうべくスタジオにお邪魔した。

Q.制作背景を伺う前に、好きな映画監督を教えてください。

デビット・リンチですね。あとクエンティン・タランティーノも好きだし、言ってみれば「我慢比べ」のような(笑)中期ゴダール作品なんかもよく観てました。

Q.作風からすると(アンドレイ)タルコフスキーも好きそうですが。

ああ、好きですね。作品は何本も観ています。

Q.サウンドトラックを担当するのは何本目ですか?

今回が2本目です。1、2曲だけ提供する、みたいなのは何度かありますが、1作品まるまる担当するのは2本目です。1本目はエストニアで製作されたドキュメンタリーで、題材は(新型コロナの)パンデミックについてでした。そういえばあの作品どうなったのかな? 「完成しました」となってから特に連絡がなくて。

Q.今回のオファーを受けた時、どう思いましたか?

連絡をもらったのが、ちょうど「ライフ・イズ・クライミング!」で舞台となっているコロラド州でツアーをしている時だったんですよ。コロラドに行くのは初めてだったんですが、本当にたまたま。イメージしやすいなと思いましたね。ツアー中に、デンバーから2時間ぐらいのところにある 山のほうに連れていってもらったんです。ゴールド・ヒルっていうところで。これが劇中に出てくるナオヤさんが通っていたCMC(コロラド・マウンテン・カレッジ)とそっくりのところだったんですよね。

Q.オファーした方の流れを言うと、「劇伴をどうしようか?」となった時に、「Aphex twinの『Ambient works vol.2』のような感じ」と言ったら(配給会社)シンカの森プロデューサーから「chihei hatakeyamaって日本のアーティとはどう?」と教えてもらいオファーすることになりました。オファーの時に他のアーティストの名前を引き合いに出されるとやりづらいですよね?

APHEX TWIN 「Ambient works vol.2」

やりづらいですね(笑)ただAphex twinまでいくと「ああいう風にはならないから大丈夫」って思うんですけど、似た感じにできちゃうアーティストを出されるとすごくやりづらい。Aphex twinは僕が20代だった90年代、メチャクチャ輝いてたアーティストで、神みたいな感じですよね。ただ「Ambient works vol.2」は当時あまりピンと来なかったんですよね。Vol.1の方がキャッチーでしたから。「Ambient works vol.2」は今聴いても特殊。あの作品のフォロワーもその後あらわれていないと思うし…もう一回聴いてみようかな。

Q.実際の制作にはどのように取り掛かったのですか?

やっぱり、映画に合ったものじゃないといけないから(笑)仮編集の映像をもらったのがアメリカ滞在中だったので映像を見ながらイメージを膨らましていった感じですね。一緒にツアーをまわっていたアメリカ人にも見せて、映像の印象を教えてもらったりして練っていきました。日本に帰ったらすぐに制作に取り掛かれるよう、「こういう感じで作ったら このシーンに合うんじゃないか」とイメージをストックしてました。

Q.楽譜におこしたり、メモを取ったり…ですか?

僕はそういうのはしないんですよね。頭の中のイメージだけ、忘れちゃったら、その程度だったんだと。メモを残しておいても、後で正確にフィードバックしてくれないんですよね、僕の場合(笑)ぼんやりとした感触、イメージ、塊みたいなものなので。それを言語化してメモに残した場合、そのメモをもう一度イメージに戻さなきゃいけないですけど、それが全然戻らない(笑)監督がアコースティックギターを使いたいと言ってた気がするので、ライ・クーダーを聴いたりはしましたけど。

で、アメリカでツアーしているうちに何曲かイメージはできていたので、日本に帰ってきてからガーっとやっていって。(帰国後)1ヶ月ぐらいで曲のラフスケッチたちをお渡しできましたね。

Q.ちょうどアメリカ、しかもコロラドをツアー中にオファーして、曲のイメージもしてもらえたのは映画にとってはラッキーでした。

そうかもしれないですね。あともう一つ大事なことがあって。僕の父親が障害者施設で働いていて、子供の頃よく仕事の手伝いに行ってたんです。視覚障害者の方がやるバレーボールがあって、そのサポートをしたり。「今、ボールが右にいってます」みたいな、それこそナオヤさんがやっている視覚ガイドのようなことですね。あとは一緒に梨狩りに行って「もう少し上の方、もうちょっと、そうそこです」っていう。その経験はすごく大きいですね。だからコバさんに対しても、親近感があるというか、自分的には懐かしいというか。自分が手伝いに行っていた障害者施設の人も、コバさんのようにみんな明るかったですね。映像と自分の距離を無理に縮める必要がなかったのは、良かったですね。

あと、クライミングシーンじゃないところで、あの2人、コバさんとナオヤさんが歩いているシーンってすごい印象的ですよね。映画って、ああいう雰囲気があるものだなって。座頭市もそうだし、鈴木清順監督の「ツィゴイネルワイゼン」の旅している感じとか…若山富三郎さんの子連れ狼とか…。そういった作品とも通じる雰囲気がある気がしますね。あの2人が歩いている姿は絵になるなーって。

Q.最近のアルバムだと、小津安二郎監督の「晩春」にインスパイアされた「Late Spring」のリリースが2021年の4月でした。この作品と今回のサウンドトラックとはどんな関係にありますか?

最近の音楽は音を足していく方向というか、ちょっと物足りないと「何か他の音も入れるか」というアレンジをしていく発想が多いと思います。「Late Spring」では、できるだけ一つの音で、ギターならギターのワンテイクだけで成立するようなニュアンスを伝えたいなと。侘び寂び、ですね。

そうして「Late Spring」を作った後に、その手法から離れて「今度は音を足していく方向性でもいろいろ試したいな」と思っていたところに今回のお話をいただいた。だから最近の僕の作品の中ではチャンネル数が多い作品となったのが「ライフ・イズ・クライミング!」でしたね。ただ何曲かは「Late Spring」の手法を踏襲している曲も何曲かはあります。例えば、劇中コバさんが最初の岩を登った時に流れる曲、あれはますギターを弾いて、いいテイクがあったからそこから作っていったんですけど…。

chihei hatakeyama 「LATE SPRING」

僕の場合、その「いいテイク」っていうのを狙ってできないんですよ(笑)不思議なことに。あのギターをもう一度弾いてと言われてもできないというか、どうやったかあまり覚えていない(笑)。あとで聞いて「これいいじゃん」っていう感じです。

Q. JAZZのアプローチに似ているんでしょうか?

うーん、どうなんでしょうね。僕は楽譜も読めないですし、楽譜を残せるような性格でもないんです。だからこのデジタルメディア、パソコンで録音して、後で編集できるというのは自分に合ってますよね。なかったらどうなってたんだろう?

Q. 1人インプロビゼーション(即興演奏)って感じですか。

今回のサウンドトラックに限らず、僕は楽曲制作ってノーマル精神状態だとできないんですよね。音楽を弾ける状態に持っていかないといけないんですよ、精神状態を。僕の場合、それが夕方の4時から夜の8時なんですよね。なんか変化していく時間帯。その家族にすごく迷惑がかかる時間帯(笑)が、音楽のモチベーションも上がるし、アイディアも出てきちゃう。 記憶がなくなる、まで言うと大袈裟だけど、音楽だけに集中できる。まあ全然ダメな日もありますけどね。何やっても全然上手くいかない、みたいな。だからアルバムに採用されている演奏も、結局2日ぐらいの間にやっていたりして、あれ?あとの日は何やってたんだろうってなったりします。

映画の作品世界と呼応するようなサウンドスケープをどのように生み出していったのか?次回は収録曲の解説を一曲づつ聞いていきます。

LIFE IS CLIMBING ORIGINAL SOUNDTRACKは絶賛発売中。

映画「ライフ・イズ・クライミング!」の公開情報はこちらをご覧ください!

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